都留の優しさ探訪

偶然の発見が黄色い絶景に
ー都留アルプスのミツマタ群生地を守る人々ー

Written byのり
都留アルプスのミツマタ群生地に咲く黄色い花。春の里山を彩る絶景

春の里山に広がる、偶然生まれたミツマタの群生地

春になると、山の中にふわりと浮かぶように咲く黄色い花「ミツマタ」
その群生地が、山梨県都留市の里山「都留アルプス」にあることをご存じでしょうか。

実はこのミツマタ群生地、計画的に植えられたものではありません。
山の整備をしていた人たちが、“偶然”見つけたことをきっかけに生まれました。
都留市のほぼ中央に連なる山々「都留アルプス」。
春になると、黄色い鞠のようなミツマタの花が点在し群生地で開花し、春の訪れを告げる風景が広がります。
見頃は例年、3月下旬から4月中旬。登山道の中に広がるミツマタの群生は、訪れる人の足を自然と止めます。
この場所を整備・管理しているのが、登山愛好家によるボランティア団体「都留アルプス会」です。
今回は、ミツマタ群生地が生まれた背景や、都留アルプスという山の成り立ち、そして四季を通じた魅力についてお話を伺いました。

◆ミツマタ◆
ミツマタ(学名:Edgeworthia chrysantha)は、春先に黄色い花を咲かせる低木で、和紙の原料としても知られています。
都留アルプスでは、自然に自生していたミツマタが手入れされ、現在は群生地として、例年3月下旬から4月中旬に見頃を迎えます。

◆都留アルプス会◆
県内外でさまざまな山歩きを楽しむ登山愛好家の団体「クレイン山の会」から、
有志メンバーが集まり、2016年に結成されたボランティア団体です。

都留市の中央に連なる山々に着目し、それらを一つのハイキングコースとして整備。
この連なった山々を「都留アルプス」と名付けました。
現在は、都留市を中心に郡内在住の40代〜80代の男女38人が活動しています。
今回お話を伺ったのは、会長の内野一洋さん(81)と、事務局長の奥平正純さん(79)です。

偶然の発見から生まれた― 都留アルプスのミツマタ群生地―

都留アルプスのミツマタ群生地は、最初から観賞用として整えられた場所ではありませんでした。
山を整備する過程で見つかり、人の手によって少しずつ守られてきた風景です。

のり:来月(3月)下旬からミツマタが見頃を迎えますが、このミツマタは、都留アルプス会の皆さんで植えられたものなのでしょうか?

内野さん: いえ、植えたものではなく、偶然の発見なんです。

のり:偶然の発見だったのですか?

内野さん: 都留アルプスを整備しているときのことです。
休憩時間にお弁当を食べようと坂を上がったところ、「ここにミツマタが咲いているよ」という声があって、皆で見に行きました。
林の中に自生していたもので、グループの中に花に詳しいメンバーがいたおかげで、パラパラとしか咲いていなかったミツマタにも気づくことができたんです。
見つけた当時は、木の陰にあって、あまり日が当たらない環境でした。
そこで地権者の許可をいただき、光を遮っていた木を切り、周囲の環境を整えていきました。すると日が当たるようになり、少しずつ、どんどん増えていったんです。

のり:ミツマタは今も増えているのですか?

内野さん:はい、今も増え続けています。
偶然見つけたことがきっかけですが、皆で少しずつ切り拓いてきました。
最初から狙っていたわけではありませんが、今では都留アルプスを代表する見どころになりましたね。



また、都留アルプスには桜並木もあります。 数年前、桜が散り始めた頃に雪が降り、雪道の上に桜吹雪が舞う、とても美しい光景を見ることができました。
ミツマタや桜のほかにも、探してみると季節ごとに小さな花が咲いています。

奥平さん:毎年、ミツマタが咲く頃にハイキングイベントを開催していて、昨年(2025年)の春には、300人を超える方にご参加いただきました。

駅から歩ける― 四季を楽しむ里山「都留アルプス」―

都留アルプスの魅力は、春に咲くミツマタだけではありません。
市街地にほど近い場所にありながら、四季折々の自然や景色を楽しめる、親しみやすい里山でもあります。

初心者からベテランまで、年齢や経験を問わず歩けること。そして春夏秋冬、それぞれ違った表情に出会えることも、都留アルプスが多くの人に親しまれている理由のひとつです。

のり:都留アルプスは、春以外の季節にも楽しめるのでしょうか?

奥平さん:11月の紅葉の時期も綺麗で、楽山公園のもみじは特に見応えがあります。
その時期にあわせて、秋のハイキングイベントも開催しています。



内野さん:私は冬山が好きなんですけど、冬になると葉が落ちて、景色が遠くまで見渡せるようになるんです。持参したインスタントコーヒーを飲みながら、
「あぁ、こんな景色だったのか」と思うこともあります。

都留アルプスは、雪山というほど積もることはほとんどありませんが、当然、ある程度の準備は必要です。

のり:夏の都留アルプスは、どんな感じなんですか?

内野さん:夏は、比較的カラッとしていて歩きやすいですね。

一般的に、登山に向いている山でも、夏は湿度や気温が上がって、ヒルが出るために登れなくなることがあります。その点、都留アルプスは乾燥している山なので、これまでヒルの被害は報告されていないんです。

のり:都留アルプスならではの魅力は、どんなところにありますか?

内野さん:都留アルプスは、全長約8km、標高500m〜650mほどの山々が連なった里山です。
このうち、名前が付いている山が6つあり、尾根を登ったり下りたりしながら歩くのが基本のルートになっています。

奥平さん:自然や景色だけでなく、歩きながら歴史を感じられるのも魅力ですね。

内野さん:そうですね。戦国時代にのろし台があったとされる烽火台跡や、同じく戦国時代に小山田氏が城を構えていたと伝わる住吉神社、さらに鍛冶屋坂水路橋(かじやさかすいろきょう)別名「ピーヤ」と呼ばれる大正時代の水路橋なども残っています。



また、山の途中からは都留の町並みもよく見えるんですよ。
城下町・谷村の古い町並みと、都留文科大学周辺の比較的新しい町並みの両方を眺めることができます。

こうした町との距離の近さも、都留アルプスならではの特徴です。

のり:アクセスの良さも、都留アルプスの魅力なのでしょうか?

内野さん:そうですね。駅から近いという点も、大きな魅力です。
富士急行線の都留市、谷村町、都留文科大学前、十日市場、東桂の5つの駅から、
どこからでも都留アルプスにアクセスできます。

以前は、登山というと、車で近くまで行き、登って下山したあと、再び車に戻る、いわゆるピストン型が一般的でした。
ですが最近は、電車で行って電車で帰るルートも人気です。

当初は都留市駅を起点に東桂駅をゴールとするルートを想定していました。
ところが、東桂から山に入り、都留アルプスを歩いたあとに買い物をして、電車で帰るという、想定とは逆のルートを楽しむ方も増えています。
駅の近くに温泉があるので立ち寄りやすく、便利だという声も多いですね。

のり:都留を大満喫できるコースですね!

内野さん:そうですね。町中にあって、気軽に入りやすい山だからこそ、都留の町も含めて楽しめるコースになっていると思います。

それに、都留アルプスは、いつでも下山できる山でもあります。
エスケープ道路がいくつも整備されているので、体力や時間に合わせて歩けるんです。

のり:エスケープ道路とは?

奥平さん:ハイキングマップを見ると分かるのですが、都留アルプスには途中で下山できる道がいくつも整備されています。
疲れたときや状況に応じて、無理なく降りられるようにしているんです。



内野さん:都留アルプスの全ルートを歩くと、だいたい5時間ほどかかります。
体力や目的に合わせて、2時間ほどで下山するなど、歩き方を選ぶこともできるようになっています。

奥平さん:ファミリー向けのコースから、一般向け、しっかり歩きたい方向けのコースに分けているので、幅広い年代の方に楽しんでもらえます。
インターネットの口コミでも、「里山だからと軽く考えていたけれど、最後まで歩くと意外と歩きごたえがある」 といった声を見かけますね。

都留アルプス会がつくってきた「手作りの山」 ― 今も続く整備と、次世代への思い ―

ここまで紹介してきた都留アルプスの風景や歩きやすさは、 自然に任せて生まれたものではありません。
その背景には、都留アルプス会の人たちによる、地道な整備と手作業がありました。



のり:都留アルプスは、さまざまな楽しみ方ができる魅力的な場所ですね。コースが長く、脇道も多いとなると、整備はかなり大変だったのではないですか?

内野さん:最初に4〜5人で歩いてみたとき、山道はかなり荒れた状態でした。
そこで市とも協力しながら、できるだけ手作業で整備していこうと決め、専門家を入れずに、私たちだけで始めました。

奥平さん:まず取りかかったのは、倒木の撤去でした。100本近くあったので、さすがに私たちだけでは手が回らず、森林組合の方にも協力していただきました。

その後、道に迷われては困るので、標識づくりにも取り組みました。
コストの面も考えて、看板に文字を彫る作業は業者にお願いし、白く色を入れる作業は自分たちで行いました。完成した標識は、自分たちで山に運び、40〜50か所ほどの場所に設置しました。

内野さん:標識の整備と並行して、階段をつくったり、ロープを張ったり、
雑木を刈ったりといった作業も続けてきました。
ただ、整備には終わりがありません。
自然の中ですから、手を入れ続けないと、すぐに荒れてしまいます。
月に1回ほどを目安に、定期的に山に入っています。

台風が一度通過するだけでも、登山者の方から
「倒木がありますよ」「道が崩れています」といった連絡が入ります。
そうすると、また山に入って整備をする—その繰り返しですね。

のり:皆さんの中には、建築や林業関係のお仕事をされている方がいらっしゃるのでしょうか?

内野さん:いえ、まったくいません。皆、いわば素人です。
ただ、長年山を歩いてきた経験はありますから、
「ここには標識があったほうが安全だね」
「この坂にはロープを張ろう」
「ここは市にお願いして、階段やトイレを設置してもらおう」
といった判断はできました。

のり:山をよく知っている皆さんだからこそ、できた取り組みなのですね。
「都留アルプス」という構想を考え、名前を付けた当時の様子を教えてください。


内野さん:月に一度、主に山梨県近隣を中心に山歩きを続けてきました。その中で、各地に「アルプス」と名の付く山があることを知ったんです。

沼津アルプスや鎌倉アルプス、埼玉の長瀞アルプスなど、いわゆる「ご当地アルプス」ですね。 実際に、そうした山々を歩いてきました。

それなら、都留市にも連なった山があるし、ここを整備していけば「都留アルプス」と呼べる山になるんじゃないか。そう考えて動き始めたのが、2016年です。

実際に山に入って状態を調べていく中で、ミツマタの群生も見つかりました。
調査を重ねるうちに、きちんと整備をすれば 、優良なハイキングコースになるし、都留市の観光資源の一つにもなると感じました。

そして、山を歩くコースとして整備を進める中で、これらの山々を「都留アルプス」と名付けることにしました。

のり:計画から整備、そして今も手入れを続けていらっしゃいますが、大変なことも多かったのではないでしょうか。それでも続けてこられた理由を教えてください。

内野さん:やっぱり一番大きいのは、みんな山が好きだということですね。
お弁当を持って山に入るだけで、もうご機嫌な人ばかりなんです(笑)
「山の整備に行こう」と声をかけて、嫌だという人は一人もいませんでした。

のり:これから、何か考えていらっしゃることはありますか?

内野さん:これからのことを考えると、まず現実的な課題があります。
私たちもそれぞれトレーニングはしていますが、どんなに鍛えていても、やはり年齢には逆らえません。

メンバーの中で最高齢は85歳の方がいて、経験も豊富で本当にすごい人なんですが、
「高い山は、今年が最後かな」と話すこともあります。

奥平さん:毎年そんなことを言っているんですけどね(笑)

内野さん:今は、「登りたい山」よりも「登れる山」を楽しむ、そんな気持ちに変わってきました。自分自身も、いつかは限界が来るんだろうな、そろそろ店じまいかな、と思うこともあります。

ただ、この都留アルプスは、せっかくここまで作ってきました。
私たちだけが楽しんで終わらせるのは簡単ですが、人が入らなくなると、山はすぐに荒れてしまいます。

だからこそ、後継者のことを考えています。
この先もどうやって維持管理していくのか。それはこれから向き合っていかなければならない大きな課題だと感じています。

取材後記

都留アルプス会の皆さんの山歩きは、皆でお弁当を食べたり、ルールを決めて声を掛け合ったりと、どこか学校の体育の授業や遠足を思わせる雰囲気がありました。
第二、第三の青春を謳歌しているようで、とても素敵だなと感じます。
 
また、お二人のお話からは、山は「いつ、誰と、どんな目的で登るか」、さらには天気や体調によっても印象が大きく変わり、同じ山でも何度でも楽しめる場所なのだということが伝わってきました。都留アルプスをどう楽しむかは、ぜひ登山する方ご自身で見つけてほしい。そんな言葉が印象に残っています。

なお、都留アルプス会では、入会を希望する方や興味のある方からの声がけを、いつでも歓迎しているそうです。

2026年3月29日(日)には、第18回都留アルプスフリーハイキングも開催されます。ミツマタや桜が見頃を迎える時期に、都留アルプスを歩いてみませんか。
イベントの詳細は都留市役所ホームページをご確認ください。

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