都留の優しさ探訪

「織り物を紡ぎ、人と世代を繋ぐ。」都留ならではの傘づくり教室を運営する天野緑さん

Written byすけ

郡内織のかさ

郡内織のかさ
こちらの綺麗な色合いの傘、ご存知ですか?
都留に長くお住まいの方であればわかるかもしれませんが、こちらは都留の特産「郡内織」の製法で作られた傘なんです。

「一般社団法人まちのtoolbox」の小川悟(おがわさとる)さんと、「天野商店」の天野緑(あまのみどり)さんが運営している傘づくり教室で仕立てられました。
今回はこの傘づくり教室の活動と、そこに込められた小川さんや天野さんの思いや優しさに触れていきます。

傘教室の概要・活動内容

傘教室の概要・活動内容 すけ:早速なのですが、傘づくり教室について簡単に教えていただけますか?

小川さん:はい。私たちが実施している「郡内織・ほぐし織 手作り洋傘教室」は谷村織物工業協同組合さまのご相談により2021年より始まった取り組みになりまして、2023年で第3期目になります。「都留市の地場産業である織物の職人の後継者不足」という大きな課題の解決を目指し、主に市内の方々に、郡内織でつくる伝統織物の洋傘を製作していただいています。例年、参加者の皆さまには「とても楽しかった」とお声をいただけています。

すけ:織物職人が不足しているという課題があるんですね。これまで何名の方が参加してくれているんですか?

小川さん:3期生までで25名、おもに市内の主婦の方や元気なシニアの方々が多いですね。学生さんも2名参加なさっています。

傘教室を開いた経緯・目的

傘教室を開いた経緯・目的 すけ:今年で3期目ということですが、この教室の始まりはどのようなものだったのですか?

小川さん:2020年にtoolboxへ市内にある谷村織物工業協同組合さまから後継者不足と織物の産業振興についてのご相談をいただいておりまして、同じように課題感を持つ天野商店様に私の方からお電話しました。

天野さん:そうでしたね。もともと主人が傘教室のお話を少し市としていたみたいで、私もこの織物を絶やしたくないと思っていたこともあり、ご相談を受けました。



すけ:なるほど、まちづくり法人であるtoolboxと、匠の技術をお持ちの天野さんが、郡内の同じ課題を解決するべく出会ったわけですね。
天野さんは、どのような心持ちでお受けになったのですか?


天野さん:「私の技術が教えられるなら」と嬉しかったですよ。私も東京の教室に通ったりして、傘作りに関しては必死に勉強しましたから。

小川さん:天野さんは、「職人の技術というのはあまり外に出されるものではないけど、いくら伝統といえど人に伝えいていかないと廃れてしまうよ。」というお考えをお持ちなんですよね。

天野さん:そうですそうです。昔の丁稚奉公(でっちぼうこう)のように、職人に弟子入りしてやっと後継者が生まれる、なんて世の中ではなくなっているわけですよね。なので、いまに合わせた「教室」という形はいいなあと思いましたよ。



すけ:先ほど「外に出される物じゃない」とのお話がありましたが、どういうことなんでしょう?

天野さん:やっぱり郡内織もそうだけど、技術すべて教えるのには時間がかかるし、難しい技術や行程が多くて後を継げる人がいない。あとはどこかに真似されるのが不安とか、伝えていくための方法が見つけられない、っていう原因で廃れていっちゃうんじゃないかなあ。私のところは、傘の生地の染めの部分と、傘作り全体のコーディネートをやっているけど、糸作りとか縫製の職人も昔は都留にいたはずですよ。

すけ:だからこそ、伝統として守るべき価値も、存続も、いいバランスでできる「傘づくり教室」を実践しているということなんですね。

小川さん:そうですね。この傘作り教室では、都留の城下町の歴史の文脈の中で織物の文化も愛されて、それに親しみを持つ地域のコミュニティが豊かになる、という流れを理想としています。文化の復興に対して意識を持つ人数を上げていくというか、郡内織が「日常生活の中に」入り込む形で地元の傘を使ってもらったりとか、実際に作れちゃうみたいな、というのが我々がやっている取り組みですね。



すけ:実際に3期おこなってきて、「やってよかった」と思うことってありますか?

天野さん:技術と歴史のつながりが途切れてしまうのではないかという危機感が常にある中で、これまで25名の方々に技術に触れてもらい「とても楽しかった」と言ってもらえていることは本当に良かったと思っています。それと、参加いただいた皆さんはとても熱心で、見ていてすごく嬉しいです。傘教室に参加した卒業生(1〜2期生)の人が教室に来てサポートしていただいて、一体となって教えるみたいな感じになっているんです。今サポーターも7名ほどいらっしゃって助かっています。第1期の頃は、教室の時間外にもお教えしていましたよ。みんないいものを作りたいんです。

印象に残っている参加者① 教室外の時間に練習する人も 印象に残っている参加者② 千葉からの参加者

印象に残っている参加者① 教室外の時間に練習する人も 印象に残っている参加者② 千葉からの参加者 すけ:わあ、そのお話詳しく伺いたいです!もはや皆さん「職人」ですね。

天野さん:そうですね。第一期の傘教室は7名の参加者がいらっしゃって、対して傘の生地の縫製に使う専用のミシンは1台しかなかったんです。なおかつ縫うこと自体が最初は難しいので、どうしても教室の時間内では収まらなかったんです。お店のほうに来ていただければミシンもあるし、というお話をして、納得のいくものを作るお手伝いをしました。今はミシンが3台まで増えたし、傘教室の卒業生が頼れる先輩サポーターになってくれていて、少しゆとりが出ました。

すけ:すごい、皆さんの情熱もそうですが、そこに応えてあげたいという天野さんのお気持ちが素敵ですね。
ちゃんとコミュニティーの中で伝統が引き継がれている感じもします。


天野さん:よかったです。千葉に私の同級生がいるのですが、退職後に時間が余っちゃって困っているというので、傘作り教室に誘ってみたんです。
そうしたら見事にハマってしまって。自分で作った傘、これまで12本とかですよ。親族に配るんですって。
それで翌年とかにもう一本作ってみたら、前にご自身で配ったものが下手に見えてしまって恥ずかしくて「もっといいものを作りたい!」というんです。

すけ:すごいですね。そこまでのこだわりが出せるほど、郡内織の傘作りは奥深いものなんですね。

天野さんの経歴・傘教室を開いた感想・文化継承への思い

天野さんの経歴・傘教室を開いた感想・文化継承への思い すけ:そう言った参加者さんたちを目の当たりにしてどうお感じになりますか?

天野さん:嬉しいです。なんかね、皆さんが喜ぶっていうか、私にできたんだっていうところが嬉しいです。来てくれる人がみんな楽しんで、教えられる側も教える側も仲良し。全然知らない人が来てもみんな仲良しになって帰ってくる。それがいいじゃないですかね。参加者の中には、知り合いの人から「私も作って欲しい」って言われることもあるみたいで。
そういうのがもっともっとね、広がってくれるといいなと思いました。



すけ:そうお話しなさる天野さんが「嬉しい」というお気持ちがお言葉や表情から伝わってきます!伝統を繋ぐと言っても一筋縄には行かないですもんね。
確かに価値のある物だからこそ、大量生産せずに人のコミュニティーの中で循環する形で、都留のまちに少しずつ広がっていくというのは、なんだか奥ゆかしくて素敵な取り組みですね。


天野さん:ありがとうございます。そして古い傘も捨てちゃダメよっていうんです。古い傘をばらしてまた張り替えができるから。いま風にいえばSDGsですか?だからみんな古い傘あったら持っておいでねっていうんですよ。そうすればもう一回張り替えができるしね。古くなっちゃった傘がよみがえって地域の伝統が長く続いていくのと同じように、やっぱり「使い捨て」じゃなくて物を大切に使ってもらいたいなっていう思いはありますね。自分で作った傘だからこそ大事に使ってもらいたいですね。

今後やっていきたいこと

今後やっていきたいこと すけ:そうですよね。今後どのようにプロジェクトを展開していきたい、とかありますか?

小川さん:傘作り教室自体、代々的な広告とかPRはせずに募集をかけてやり始めた感じなんですよ。
私たちも初めは手探りで、参加者の方々はよくついてきてくださって感謝しています。その分やっぱりそれだけ一緒にやってるんで仲良くなるし、やっぱりそういう繋がりとか、熱意やこだわり、気持ちに応えたいっていう思いがあります。
だからこそ、売れるものを少しずつ作っていくというところでしょうか。
結局ほら、自分で作るって、「ちょっとここが縫製甘いけどいいか」となることもあると思います。それだけではなく、製品で店に置けるレベルのものを参加者の方もこだわって作れるようになればいいなって思うんですね。やっぱり満足いくものを作りたいんだ、という気持ちは強く感じますので。

小川さん:現状、この取り組みによる経済的な「利益」というものははっきり言ってないです。
ビジネスとしてやっているというよりは、このプロジェクトというか、都留市の文化振興というか、都留市の素敵な文化を続けていくための取り組みという状況です。
ですが、これがもしこの地域オリジナルの傘ができて、「ここでしか買えない」というものになって、欲しいという人が1人でも2人でも来てくれればいいなと。
続けていくためにやっぱり広めていかなくちゃいけないし、繋いでいかなくちゃならない。
これから商品開発なんかも手掛けていきながら、地域のブランドを育てていければというのが私たちが今後やりたいなと思っているところです。


すけ:貴重なお話ありがとうございました!

編集後記

都留市に郡内織という特産品があることは知っていましたが、その技術を応用した「傘作りの教室」があることは知りませんでした。
個人的に天野さんと小川さんのお話の中で特に印象的だったのは、天野さんが傘作り教室の時間外でも制作のお手伝いのご対応をなさったというエピソードです。こだわりを持って「作りたい」という参加者さんたちの気持ちを真摯に受け留めて、自分にできることをしたい、という思いが素敵だなと思いました。
今度の帰省では、地元の祖母に郡内織の傘をプレゼントしたいなと思いました。

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