都留の優しさ探訪

”現地の人々とともに” 今は都留の森で奮闘中!
一般社団法人 Forest Tribes 代表理事 辻康子さん

Written byのり

<一般社団法人 Forest Tribes> 代表理事 辻康子さん

季節は冬。今まさに最盛期を迎えているのが【林業】です。木々の葉が落ち、水を吸い上げない冬場は、木の伐採に適しているとのこと。そこで今回は、元・地域おこし協力隊で、現在は森林の整備や活用、森林を体験するワークショップなどを行う一般社団法人Forest Tribes(フォレスト トライブス)代表理事の辻さんにインタビュー。森の魅力や課題をはじめ、辻さんから見た都留の魅力、さらには人生についても!お話を聞かせていただきました。

◆辻康子(つじ・やすこ)さん(49)◆
静岡市清水区出身。大学卒業後、体育の教員、JICA青年海外協力隊(現海外協力隊)を始めとする国際協力の職務経験を経て、2020年5月〜2023年4月まで、都留市の地域おこし協力隊として、南都留森林組合で林業を通した地域活性化に取り組む。任期を終えた後、一般社団法人Forest Tribesを設立し、代表理事かつ「フォレストコーディネーター」として企画運営を担う。

<目次>

①ご存知?「森のエビフライ」
 隠れた魅力満載の林業に興味を持ってもらいたい


②「誰かの役に立ちたい」
 体育教員、国際協力を経て辿り着いた都留は”いいところ”


③公私ともに「ゴールはない!」
 動き続けることで未来を変える

ご存知?「森のエビフライ」
隠れた魅力満載の林業に興味を持ってもらいたい

のり:早速ですが、辻さんは今、どんなご活動をされているのですか?

一般社団法人Forest Tribesでは、森づくりを目的とした森林体験プログラムなどの森林空間活用、地域材の活用推進を目指す森の資源活用、森林・里山整備などを事業の柱としていて、林業の現状や日本の森林が抱えている課題を外に発信したり、一般の人たちに向けて、森や林業に関心を持って実際に足を運んでもらえるようなイベントを企画したりしています。(※詳細は公式HP)。


 
 最近は、都留市戸沢の森林所有者さんの協力を得て、整備を進めながら体験フィールドとして活用させていただき、小中学生を対象とした森林体験プログラムを実施しています。立っている木を実際にのこぎりで伐ってもらい、木って、森ってこういうものなんだっていうのを体験してもらう取り組みです。今年は、縁があって、東京・新宿区の子どもたち約500人が来てくれました。都会の子どもたちが都留の森に来て、めちゃくちゃ興奮して帰っていきました(笑)

 体験は、林業のプロたちがインストラクターになり、安全管理を徹底して行いますが、木を伐ることはどうしても危険を伴うので、毎回神経がすり減るんですよ。それでも、森について知ってもらう、伝えるということは、大きな意味があると思って取り組んでいます。

のり:都留市は、市の面積の約84%が森林と聞きました。どんな課題があるのでしょうか?

このあたりは民有林が多くて、ものすごく細かく所有者さんが分かれているのですが、代替わりをして自分の土地がどこか分からなくなっていたり、登記簿に載っている所有者さんはもう亡くなっていて相続がちゃんとできていなかったり、どこの誰の土地かも分からないみたいな土地もあって。でも、森の整備には、所有者さんの許可が必要なので、それがすごく大変なんです。

のり:森は整備しないとどうなるのでしょうか?

木そのものの成長が悪くなり水を蓄える力が無くなって土砂災害につながったり、野生鳥獣の温床になったり、人里にも被害が出てしまいます。

 今、この地域に限らず日本全国ですが、人が植えた森、人工林がありますよね。遡ると、第二次世界大戦のとき、燃料や道具などとして使うということで日本中の木が伐採されて、戦後の日本は”ハゲ山”だったということなんです。

 それが、家を建てたり、生活を立て直したり、復興のためには木が必要だ!ということで、拡大造林の時代に入るわけです。でも、木って、植えても育つまでに時間がかかりますよね。伐採適齢期は、樹種にもよりますが、植えてから50〜60年ほどと言われているのですが、その間に日本のライフスタイルは大きく変わりました。煮炊きをするのに使っていた薪はガスや電気になり、建築用木材は輸入の自由化で外国産のものが多く出回るようになり、日本の木は必要なくなってしまった。今年(2025年)で戦後80年ですから、伐採適齢期を過ぎた人工林があふれてしまったんです。

のり:需要と供給の、バランスもタイミングもうまく合わなかったのですね・・・。

さらに、日本の林業って、すごく手がかかるんです。急峻な山で、木を育てたり、伐ったり、運び出したりって本当に大変で。想像してみてください。山の上の方にある木を伐って、木材として搬出するにはどうしたらいいか。

 木って、大きくて重いですよね。だから、まずは山に道を作るところから始めるんです。大木を運ぶためには大きいトラックが必要でしょう?そのために重機で道を作るんです。そして、木を伐るのは、人が一本ずつ伐りますよね。斜面での作業ですよ。危険も伴います。

 手間暇かけて伐り出した木は木材市場に運んで、せりで値が決められるんですが、今は直径20〜30㎝で4mくらいのヒノキや杉の丸太が、一本2,500円~3,500円くらいです。

のり:え!!そんなに安いんですか?!

本当に大変なのに、木が売れない、儲からないとなれば、当然、林業従事者もどんどん減っていきますよね。今、伐採適齢期の森が山ほどあるけれど、所有者さんは自分で管理できなくなっていて、林業従事者も不足していて、放置されていく一方です。

 昔は、木や森って財産だったそうです。将来子どもが結婚するときに売ってお金にしようとか、家を建ててあげようとか。今でいう、投資とか”財テク”で、いっぱい植えたけど、今は価値が低くなってしまって、誰も関心がない。放置されて、むしろ負の遺産ですよね。

のり:切ない気持ちになりますね・・・。では、森や林業とは縁遠い、一般市民の私にも、何かできることはあるのでしょうか?

関心を持つこと、知ることですね。興味がなかったとしても、関心を少し寄せる。実は、私自身、林業も、森の現状や歴史も、都留に来るまで全く知りませんでした。学校で学ぶ機会がほとんど無かったから知らない人が多いですよね。だから、伝えたい。少しでも一般の人たちに知ってもらう機会、入り口を作りたいと思っているんです。

のり:知らない物事に対してのはじめの一歩って、少しハードルが高いのですが・・・

じゃあ、森には「タピオカ」と「エビフライ」があるのですが、何かわかりますか?

のり:どちらも森で採れるもの・・・ではないですよね?

どちらも見た目でこう呼んでいるのですが、まず「森のタピオカ」は、鹿の糞です(笑)「森のエビフライ」は、リスが食べたあとのまつぼっくりです。綺麗に食べ終わった残りかすが、小さなエビフライみたいなんですよ!だから、山に入っていって、松の木の下にたくさん落ちていると、昨日リスのパーティーだったんだねって(笑)。



※画像はイメージです。

のり:おもしろい!本物を見に森に行ってみたくなりました!

森っておもしろいし、奥が深いんですよ。体験プログラムの中では、普段森で働くインストラクターたちが参加者に向けて色々な話をします。

「誰かの役に立ちたい」体育教員、国際協力を経て
辿り着いた都留は”いいところ”

<span id='②'>「誰かの役に立ちたい」体育教員、国際協力を経て<br>辿り着いた都留は”いいところ”</span> のり:辻さんはご出身が静岡ということですが、どうして都留へ?

都留市の地域おこし協力隊として、2020年に移住してきました。都留に来る前は10年ほど、青年海外協力隊やJICAで国際協力に携わっていて、開発途上国で現地の人たちと生活しながら活動してきました。

 この先どうしようかと考える中で、地域の課題を、地域に入り込む形で、地域の人々と一緒に解決していく、取り組んでいくということは、舞台が世界の開発途上国か、日本の地方なのかっていう違いだけで、国際協力も地域おこし協力隊も本質的なところは一緒だと思ったんです。

 それで、地域おこし関連のマッチングサイトに登録して、自分の経歴と興味がある分野を入力したら、都留市の南都留森林組合から連絡をもらって。地域おこし協力隊として、林業を通して地域活性化に取り組むことになったんです。

のり:もともと海外に興味があったのですか?

そうですね、小学6年生のときに、父の仕事でブラジルで暮らしていたのですが、日本とは別の国で暮らす中で、ブラジルという国がとても好きになったこともあって、将来は海外で生活をしたい、仕事をしたいと思うようになりました。ただ、帰国後はずっとスポーツに打ち込んでいて、大学卒業後一旦は地元の静岡に戻って、体育の教員として働きました。

のり:学校の先生をされていたのですね!そこからなぜ国際協力の道へ?

海外への思いはずっとあって、務めていた学校に教員に向けた青年海外協力隊募集のチラシが来たんですよ。以前から興味がありましたが、最初は青年海外協力隊ってアフリカで井戸を掘っているのかなっていうイメージがあったのですが、調べてみたらたくさん職種があって。その中に体育という職種があることを知って、これなら自分の力が活かせるだろうと思って応募したんです。

 最初は、シリアで、パレスチナ難民キャンプにある小中学校で、子どもたちに体育の指導をしながら、現地の先生たちにも体育の指導方法を教えました。スポーツの技術を教えるというよりも、ルールや秩序を守ることや仲間と協力することなど心の教育としての体育ですよね。最初は現地の言葉(アラビア語)もそんなに分からなかったので、身振り手振りで。

 任期が終わって帰国してからは、結婚や出産で少しブランクもありましたが、2010年にシリアや隣のヨルダンに赴任し、その後は東京のJICA本部での経験を経て、2016年にはボスニア・ヘルツェゴヴィナで専門家として3年間スポーツを通じた平和構築プロジェクトに携わりました。その後、東京のJICA本部に戻りましたが、海外赴任中は現場の最前線で活動していたので、本部に戻ってきたときに、自分の本当にやりたいこととは違うと感じてしまったんですよね。さらに、東京の生活にもなじめなくなっていて。それで、都留に。

のり:ご自身が現地へ行って、ご自身の手で、現地の人たちと一緒に課題を解決しよう、したいんだという思いを強く持っていらっしゃるのですね。その原動力はどこから?

あまり意識したことはなかったですが、やっぱり「誰かの役に立ちたい」みたいな思いはどこかにあるんだと思います。あと、JICAで学んだ「現地の人々とともに」というのは私の中に、ずっと大切なキーワードとして今もあるんですよね。

 だから、自分にとってある地域の何らかの課題に取り組むとして、そのツールや舞台は何でもよくて、JICAのときは自分の専門の体育・スポーツでしたが、都留では自分にとって初めての林業や森がツールになったということです。場所も世界から日本へ変えて、自分の力がどこまで通用するか、どんな成果が出せるか挑戦してみたい。都留に来たときはそんな気持ちを持っていました。

 それで、地域おこし協力隊としての3年間、ここで学ばせてもらったことに対して恩返しの気持ちと、それを活かして、さらに発展していきたいと思って会社を興して、今2年目です。本当にまだまだですね。

のり:辻さんから見た都留はどうですか?

いいところだなと思いましたね。出身が静岡なので、山梨はもともと全然遠い場所ではないというか、お隣の自然豊かな、リフレッシュする場所として認識していて。中央道が近くて、東名高速もそんなに遠くないし、そんなに田舎じゃなくて、適度に便利。

 あとは、優しい方が多いと思います。だって、私、移住者として一度も嫌な思いをしたことがないですよ。受け入れてもらえないとか、外から来たのに調子乗ってるよね、みたいな、そういう思いは一度もしたことがない。オープンですよね。地域おこし協力隊が終わってからもこうしてやれているのは、本当に自分を受け入れてくれて、支えてくれる周りの皆さんのおかげだなと思います。

公私ともに「ゴールはない!」
動き続けることで未来を変える

のり:最後に、これからのことを教えてください。今、会社として目指しているゴールなどはありますか?

ゴール?その答えはね、ちょっと答えられないですね。だって分からない。ゴールってないと思いますよ。いま私たちがしている「森を守る」っていうことは、日本が、この地球が続いていく限り、ずっと続いていくことだから。

 例えば、今、戸沢の森に手を付けさせてもらっていますが、やればやるほど、自分たちのやっていることって本当に正しいのかなっていうことを自問自答するというか。だって結局、一時期しかできないですよ。仮に自分が死ぬまでやったとしても、そのあとは誰が?って。でも、それを言っちゃうと何もできない。今自分にできることをやり、次の世代に伝えていくことが大事だと私は思っています。

のり:辻さんご自身のこれからは、何か考えていることはありますか?

この数年は、世界から日本の地方に、意図的に視野を狭くして活動してきましたが、この先はもう一度視野を広げたいなと、最近ぼんやりと思うようになりました。

 というのも、私にとって、初めて海外赴任したシリアは特別な場所で、10年以上内戦が続いていましたが、いつか復興の日が来たら、自分がシリアのためにすべきことがあるはずとずっと思ってきました。世界情勢が日々変わっていく中で、それがいつかは分かりませんが、その日が来たら何かできる自分でありたいです。

 もちろん、都留の森を舞台にした取り組みはこの先もしっかりと続けていきます。おもしろ過ぎて、森が。今までは短期間で仕事や場所を変えて転々としてきましたが、今回はまだまだ。本当に奥が深くて、全然終われません。これからも頑張ります!

<取材後記>

<取材後記> 都留に来る前は、幼少期に山の中で遊んでいたくらいで、森とは縁がなかったという辻さんですが、今や森に入り、チェーンソーで木を伐ることができるのだそう!お話をお聞きしていると、森がおもしろいと心から思っていらっしゃるのが伝わってきました。

 また、辻さんたちはこれまで、都留戸沢の森 和みの里のアジサイの道、戸沢川周辺の草刈りや整備をし、参加者と一緒にウッドデッキづくりもされたとのことで、見に行ってみると、「ここにこんな道があったの?!」「この階段は初めて見た!」などとビックリ!暖かくなったら、家族で必ず遊びに来ようと思いました。

自分に何かできないかと問い続けて、ちゃんと形にしていく姿は本当に素敵で、いくつになっても、どんな環境でも、チャレンジしていけるんだと教えていただきました。辻さんのこれからのご活躍が楽しみですし、心から応援しています!!

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