「私は周りのやさしさに助けられている」 生まれ育った都留で居心地の良い環境を拡げていく奈良美緒さん
奈良さんの活動紹介
この日の奈良さんはつるのルーツ事務局以外にも都留高校の取り組みである「つる探」からの取材にも対応していました。多方面からの注目が集まる奈良さんの活動について伺いました。
マヤ:今日は高校生の皆様もいらっしゃいますが、インタビューのほう、よろしくお願いします。
奈良さん:お願いします!
マヤ:では早速ですが、現在、都留でどのような活動をされているか、お聞きしてもよろしいでしょうか?
奈良さん:株式会社つるでつながるの代表取締役をしています。事業内容はいくつかあるのですが、ひとつめはコワーキングコミュニティteraco.の運営です。teraco.の運営は5年目で、現在はここ(このインタビューの開催場所)、田原交流センターnicotの2階をそのスペースとして開いています。フリーランス、学生、移住者、ママさんなどさまざまな属性の人たちが同じ空間で作業できる場所を地域の中につくることで、新たな出会いや、その相乗効果を期待しています。
2つ目は、nicotの1階にある都留市地域子育て支援センターの運営です。今年の4月末から都留市より業務委託を受け、未就園児親子の遊び場である「子育てひろば」と、概ね3歳までのお子さんをお預かりする「一時預かり」の二つの事業を主に行っています。nicotの1階で子どもを預けて、2階で保護者が自分の時間を過ごせるといったように、この建物の中で全てが完結するような仕組みを提供したいと思い試行錯誤中です。
3つ目は、まちづくりやキャリアに関するコンサルティングです。こちらは(奈良さん)個人で動くことが多く、個人に対する相談の対応や、企業や団体からの依頼を受けて講演などをすることもあります。
教育に興味を持った中高生時代
マヤ:いろんな活動をされていますが、このような活動に至ったきっかけは何かありますか?
奈良さん:中学時代は吹奏楽部に所属していて、マーチングで全国大会金賞を取ってくるようなゴリゴリの部活バカでした。(笑)教科書読めばわかるようなことを繰り返し反復させる授業を「ムダ」としか思えなくて。
中学校2年生の時、新任の英語の先生に「この授業ってなんの意味があるんですか?」と質問して先生を泣かせてしまったんです(苦笑)。その後すぐ生徒指導の先生に呼び出されて「お前は教師をバカにしてるのか!」とこっぴどく叱られて。そんなつもりは全然なかったので悲しかったですね。でも言い返せなくて、「こんなのおかしい、いつか教師になって日本の教育システムごとこの現状を変えてやる!」って当時は結構本気で思ってました。
なので大学1年生の頃までは、地元(都留)に戻って教師になる気満々でした。高校時代、自分のことをひとりの人間としてフラットに接してくれる先生に出会って、自分もそんな風になりたいなと思ったんです。それで、その先生が行っていたという筑波大学に進学しました。
そうやって都留を出たときに、「世界って広いんだな~」、「いろんな人がいるんだな~」と実感しました。
今まで、学校という狭い枠の中にいて、生徒の進路のこと、まあ社会のことですよね、それを知らないまま先生になって、その枠の中にい続けることに対して不安を感じたんです。学校の外にどんな世界が広がっているのかを知らないまま、生徒に指導なんてできるのかと思って。それで、東京の人材教育コンサルティング企業に就職して、主に人事担当として5年間働きました。
マヤ:なるほど…
都留に戻ってきたきっかけ
マヤ:そんな東京での生活を送られていて、都留に戻ってこようと思ったきっかけって、何かありましたか?
奈良さん:東京での仕事自体はとても楽しかったけど、もう超忙しくて。(笑) 新卒採用コンサルティングと言って、他社の新卒採用活動の代行のような業務もやっていたんですが、1番忙しいときだと、6社も同時進行で業務を回していたこともあります。いろんな会社の人事担当のふりをして。(笑) 大変でした。
マヤ:そんなに!?
奈良さん:そうそう…(苦笑) 納期に追われて自分の思うクオリティでできないことが多くて、心身にも不調が出てきてしまって。とりあえず休もう!と思いました。都留を出るときは、こんなところ絶対出てってやる!って思ってたのに、くたくたになって帰ってきてしまいました。もはや会社員時代は前世みたいに思っています。(笑)
地域おこし協力隊期間
マヤ:そんな大変な経験をされて、都留に戻ってこられて、そして地域おこし協力隊をすることになった経緯を教えていただけますか?
奈良さん:まず都留に戻ってきて、地域おこし協力隊をする前に、都留の市役所の産業課でアルバイトをしていました。それでアルバイトをしている途中に結婚することになったんです。結婚相手は東京の人で、結婚したらまた東京に戻るのかな?と思っていました。でも、都留に戻ってきて過ごしていると、やっぱり自分、なんだかんだ都留が好きだなって思うようになったんですよね。結婚までの期間で色々挑戦してきたこともあって。
マヤ:具体的にどんなことをされてきましたか?
奈良さん:知り合いの家を借りてゲストハウスをやってみたり、産業課でのバイトの前に、今はなくなってしまったNPO法人の職員もやっていて、そこで都留に移住してきた人達と仲良くなったりして。そのなかで、やっぱ都留いいところだな、このまま結婚してここからいなくなっちゃうのはもったいないな、と思うようになりました。
そこで「地域おこし協力隊」として都留の良さを発信していく仕事に就くことにしたのです。私が今ここにいるのは、いろんな優しい都留の人達のおかげです。
マヤ:そうだったんですね。そうして地域おこし協力隊になられて、任期中はどんな活動をされたんですか?
奈良さん:通常だと3年任期なのですが、途中で子どもが生まれたので、産休・育休を1年とって、合計4年間活動しました。
1年目は、借りて住んでいた古民家をゲストハウスにして運営していました。海外から来た人や、早朝にゴルフに行く人、都留文科大学の学生の保護者の方も来られたりして、いろんな人達のホスティングをしました。あと、都留市全体を観光地化というか、都留市の観光資源を「発掘」してプロデュースするみたいなこともしてました。
マヤ:具体的にはどんなものが?
奈良さん:いっぱいありますよ!菊地わさび園さんとか、個性的なお寺がたくさんあるところとか。都留は観光地ではないけど、味があるというか、楽しい良い街だなって思いますね。その良さをどんな人に、どの切り口でどう届けたら喜んでいただけるかを、モニターツアーなどをやってみながらひたすら研究していました。
マヤ:なるほど~
「teraco.」のはじまり
奈良さん:2年目からは「田舎フリーランス養成講座(通称:いなフリ)」の誘致を開始しました。1年目に色々と試行錯誤した結果、都留市は観光地というより、長期滞在して「暮らす」ことでその魅力を感じてもらえる場所なのだなということがわかってきて。いなフリも1ヶ月都留に滞在しながらWEBスキルを身につける合宿型プログラムなのですが、滞在中に都留の飲食店に色々行ったり、地元の人たちと交流したりする中で都留を好きになってくれて、結果都留に移住し現在も市内で働いている方が10名ほどいらっしゃいます。
最後の1年もいなフリの運営をしつつ、講座がない期間は会場をコワーキングスペースとして地域の方や学生などに利用してもらえるようオープンにしてきました。
マヤ:なるほど。だんだん今の活動に繋がってきた感じがします!
奈良さん:よかったです!(笑) 最初から移住者を呼ぶぞ!という気持ちで始めたわけではなくて、自分のやりたいこととかがどんどん繋がっていって、最終的に今の活動やその結果・意味に繋がったんだと思います。
現在の活動について
マヤ:すごく行動力がある方だなと感じました。新しい活動をするときに、とりあえずやってみよう!という気持ちが勝ちますか?
奈良さん:うーん、そういう時もあったけど、今は結構変わってきている気がします。今までは、若干の不安はあるけど、とりあえずやってみて、なんか失敗したら誰かが助けてくれる、みたいな感じでした。(笑)
でもここ最近はそうでもなくて。「こうだったらいいのにな」ということを考えていると、都留の人が声をちょうどかけてくれるみたいな感じです(笑)。流れに乗ってるだけですね。
例えば子育て支援センターの運営も、最初はまさか自分たちがやることになるとは思っていなくて。ある方から運営会社を募集していると教えていただいて、nicotの1階で子どもが預けられて、2階のteraco.で仕事ができたら、めっちゃ私得じゃん!というとても自己中心的な発想からスタートしました(笑)。
自分がいち市民として「こうだったらいいな〜」と思ったことを、自分で形にして行っている感覚です。でもそれって自分一人では決してできなくって。今もたくさんの人の優しさに支えられながら、チャレンジしている最中です。
マヤ:そうだったんですね。
編集後記
今回は都留の高校生のみなさんと一緒にインタビューをさせていただきました。奈良さんもその高校の先輩ということで、とても温かい雰囲気でのインタビューとなりました。
奈良さんの経歴を拝見すると、チャレンジ精神がすごい行動力のある人、という印象を受けていましたが、お話を聞いていると、自分に自信がない時代もあったとのことで。なにがこんなに奈良さんを変えたのか?わたしが実感したのは、たくさんの気づきが重要なんじゃないか、ということです。キャリアや人生設計の中で、自分に自信がないと、○○を「やらなきゃ」という気持ちに突き動かされてしまいがちですが、奈良さんは「なにをしたら自分もだれかもしあわせになれるんだろう?」ということに着眼点をおいていたから、自分のやりたいことが見えてくるし、自然と周りに人やチャンスが集まってくるのかな、という風に感じました。そういった考え方や捉え方の変化は、奈良さんがいろんな人との交流の中で、たくさんの気づきを大切にされてきたからなのではないのか、と思うのです。
一緒にインタビューをしていた高校生の皆さんはジェンダーと女性の活躍をテーマに探究活動をしているそうで、「女性」をとりまく社会や政治の問題についても、奈良さんはたくさんお話ししてくださいました。
「女性活躍」という言葉自体、「男性」中心社会において、という前提があるということも話題に出るなど、高校生のみなさんにとっても、たくさんの気づきのある時間となったようです。
ライターのわたし自身、自分に自信のないひとりの学生として、奈良さんの言葉にとっても励まされました。この記事が、今、自分に自信がない人や、人生・キャリアに悩んでいる人の励ましになるような記事となったらいいなと思っております。