住職の本質を追い求めて映画出演や子ども食堂まで始めちゃった ウェルビーイングな河口智賢さんってどんな人?!
第一回 耕雲院の河口智賢さんへ
現代の都留市において大名のような器を持つ人に会いにいく、優しさ探訪のコーナー。記念すべき第一回は耕雲院の河口智賢さまにお話しを聞きにいきました。
都留市には多くのお寺があり、特に勝山城(跡)をぐるっと囲むようにお寺が谷村町に集中しています。これは都留市が昔城下町であった歴史と関係があるとされています。また、都留市に47寺あるお寺のうち24寺の宗派が曹洞宗であり、都留市と曹洞宗のつながりも気になります。そこで都留市東桂にある曹洞宗のお寺『耕雲院』を訪れ、副住職である河口さんにお寺と都留市の関係性や耕雲院というお寺についてのお話を伺うとともに、作務(僧が行なう日々の労務)以外にも多岐にわたる活動を行なっている河口さん自身のことについてもお聞きしました。
ー河口智賢さん紹介ー
曹洞宗耕雲院(山梨県都留市)室町時代に創建され600年以上の歴史ある禅寺。同寺院副住職、全日本仏教青年会理事・全国曹洞宗青年会副会長も歴任。
寺院を開放し、子ども食堂の立ち上げ、NPO法人化、映画『典座-TENZO-』制作・出演、禅とヨガを融合させたイベントや都内で精進料理イベントの主催、生涯活躍のまちビジネスプランコンテスト2022出場など、その活動は多岐に渡る。
都留市は城下町だからお寺が多い?!河口さんが考える、時代背景と浸透する宗派との深い関係
ひなこ:今日はよろしくお願いします!まず、この耕雲院はいつから続いているのですか?
河口さん:室町時代から続いています。1398年に開創されて600年を超える、由緒正しき歴史ある曹洞宗を信仰するお寺なんだよ。
ひなこ:そんなに続いているのですね。
河口さん:今は曹洞宗を信仰しているけれど、実は昔はこの耕雲院は真言宗を信仰していたんだよ。現代において宗教は法人化されて、それぞれの宗派がお寺を管理しているから途中で宗派を変えるなんてことはできないけれど、昔は法人化されていなかったから、お寺に入ってきたお坊さんが信仰する宗派によってお寺の宗派は変わることが多かったんです。
ひなこ:城下町とお寺の多さが関係しているってほんとですか?
河口さん:都留市には様々なお寺の宗派があるんだけど、曹洞宗だけでなくて浄土宗のお寺もあるんだ。
ひなこ:そもそも曹洞宗と浄土宗の違いって何ですか?
河口さん:仏教は宗派は別れていますが、最終的にどちらも目指すところは「幸せ」です。簡単に言えば曹洞宗は「自己を見つめて今この瞬間を大事にする」宗派で、浄土宗は「ひたすらに祈り続ける」宗派かな。戦国時代は乱世だから、何時死ぬかもわからない状況下では「今を大事にする」傾向が強くて曹洞宗が受け入れられたけど、江戸時代になって比較的穏やかになると浄土宗も受け入れられるようになった結果、都留市にも浄土宗のお寺が多くなったんじゃないかな、と個人的には思います。浄土宗を信仰していた家康のお墨付きが都留を治めていた秋元氏だったという背景もあると思うけど、時代背景による信者の心境に左右されたところもあると思うよ。
時代によって変わる、人々にとっての寺の存在
ひなこ:耕雲院(寺)は昔は人々にとってどのような役割だったのでしょう?
河口さん:昔は寺は戸籍管理の役割を担っていたよ。江戸幕府の時に「寺請制度」、つまり全ての人がお寺に帰属して、そこで戸籍を管理させる制度が生まれたんだけど、今では市役所などが行う大事な役割を当時はお寺で行っていたんだ。
ひなこ:お寺にそんな役割があったとは知りませんでした。
河口さん:あとは識字率も低かったから寺子屋をして人々に読み書きも教えていたね。お坊さんは経典を読むために字を理解していたから識字率は高くて、教える立場としては最適なんだ。耕雲院でも史実としては定かでないけれどおそらくやっていたと思いますよ。
ひなこ:でも現代のお寺にはそういうイメージはないですね。葬儀とか法事の場面でお世話になるくらい?
河口さん:そうだね。戸籍管理や教育の役割については市役所や学校が担うようになってしまったから、現代のお寺の機能はどんどん縮小されてしまったんだよ。
ひなこ:現在耕雲院は普段どのようなして行事を行なっているのでしょう?また、河口さんが始めたイベントはどんな物がありますか?
河口さん:主なイベントは花まつりかな。毎年4月頃にお釈迦様のご誕生をお祝いするお祭りで、もともとは檀家さん向けのお祭りだったんだけど、最近「寺マルシェ」というのも取り入れて誰でも楽しめるイベントになっているよ。花火なんかも打ち上げたりしているね。
ひなこ:檀家さん以外の人でも参加しやすく工夫された行事なんですね。河口さんが始めたイベントもあるんですか?
河口さん:都内で精進料理教室やこの耕雲院で寺ヨガも行っているよ。コロナ禍に入ってからはオンライン座禅会も開催していて、3年も続いているんだ。世界中からアクセスがあって、コロナ禍を経てSNSは1000人ほどフォロワーが増えたり、企業からの要望が多くあったりしてマインドフルネスの需要の高さを感じたよ。
ひなこ:禅とヨガやオンラインが結びつく想像ができません…!時代に合わせた様々な活動をしていらっしゃるんですね!
多岐に渡る活動の裏にある、住職の仕事の本質とは
ひなこ:どうしてこんなさまざまな活動をしているのでしょう?
河口さん:大学を卒業してから、家業を継ごうと修行に行くことを決めました。その時はまだまだ、住職の仕事は現代ではお葬式しか出番がないと思ってたんだよね。曹洞宗の青年会に入っていたんだけど、そこで東日本大震災の傾聴ボランティアの経験から得た気付きもあって様々な活動をしているよ。
ひなこ:どんな気づきがあったんですか?気になります。
河口さん:震災で家族と離れ離れになってしまったり、住み慣れた家を無くしてしまったりという被災地の方々の「お話しを聞く」というボランティア活動をしました。本当に辛い経験をした方々と関わりましたが、こちらが想像できないほど色々な思いを抱えているはずなのに、お話を聞いた後は「気持ちが軽くなった」という感想をいただいて。それから自分の仕事・禅の教えを伝えるということは、人々を苦しい思いから救うことなのだと気づきました。
お寺という場所は何かあったときに助け合える文化を培うための場所としての役割をもつべきだと気づいたんだ。お寺というのは地域に1つは最低あるでしょ?だからコミュニティの場になると思ったんだよ。お寺は亡くなった人を対象とするだけじゃなくて、今生きている人を苦しみから救い、楽にしてあげることで人が集まる場所にきっとなるだろうから。
ひなこ:なるほど。NPOを設立したり、映画を制作・出演したり、ビジネスプランコンテストに出場もしてますけど、人や地域をつなげるというお寺の役割を果たすことに通じるものがあるんですね。
河口さん:禅の教えを現代の生活に融合させるきっかけ作りをしているうちに、本当に色々な活動に発展したなと思います。映画『典座-TENZO-』ではカンヌ国際映画祭で賞もいただいて、パリにも行きましたし笑。でも全て自分がやりたくてやっていて、人を苦しみから救うというという使命感があり、その目標からズレたことはしていないので、自分の仕事としてギャップはないと感じています。
子ども食堂を運営して気づいた城下町気質な都留市との共通点
ひなこ:子ども食堂もやっているのですよね。
河口さん:これは耕雲院と都留市にある都留文科大学の学生が一緒になって生まれたものだよ。もう始めて7年くらいかな。このイベントで学生が地域に自然と溶け込み、次第に地域からも必要とされるようになってきたんだ。都留市は学生の人口も多いから、学生と地域が結びつくのは大きな意義があると思うよ。
ひなこ:でも学生だからいずれは卒業してしまいますよね?
河口さん:そうだね。でもやっぱりせっかくできたつながりが消えるのは悲しいよね。だから卒業した学生と交流を保つためにもNPOを立ち上げたのさ。都留文科大学は地域と連携してコミュニティを作ろうとする学生が多い。だからこそそれをいかに持続させるかは学生だけでなく、地域も担うことができると感じたんだ。これまで色々な活動をしてきたけど、社会的資本と人的資本がこの地には豊富にあることに城下町気質を感じるかな。
ひなこ:ありがとうございました!
編集後記
河口さんの活動の原動力として、1度きりの人生だから、今を楽しみたいというのがありました。不満を抱えたままではつまらず、出来ることをやっていれば人生楽しいのだと言うお話を受けて、このような気持ちは誰しも抱いたことがあると思うけれど、それを行動に移すことができる人は中々いないと思うので、河口さんの実行力にとても驚きました。また、インタビュー全体を通して、河口さんはとても楽しそうに語っていただき、河口さんがいかに熱意を持って、楽しんで取り組んできたのかが伺えました。私も河口さんのように、自分がしたいことに突き進んでいき、後悔のない人生を歩み、自分が誇れるような生き方をしたいと心から思うことが出来ました。