「水源山 永寿院」という名前に残る、水のまちの記憶

~永寿院~
山梨県都留市十日市場地区にある永寿院。
平成の名水百選に選ばれた富士の湧水が豊富に湧き出る「十日市場・夏狩湧水群」の湧水地があり、境内に足を踏み入れると、まず耳に入ってくるのは、水の流れる音です。
永寿院には、「水源山(すいげんざん)」という山号があります。
なぜ、このお寺は「水源山」と呼ばれるのでしょうか。
名前の由来をたどっていくと、水が育んできた人々の暮らしと、この土地の長い歴史が見えてきました。
1|境内に響く、水の音
永寿院を訪ねて

参道へ入ると、左右に立つ石像が静かに出迎えてくれます。奥へ進むにつれて空気がふっと変わり、木々に囲まれた静かな境内が広がります。
耳に届くのは、絶え間ない水のせせらぎ。境内のあちこちから湧き出る水が流れ、涼やかな音を響かせています。湧水池には、梅花藻(ばいかも)の白い花も咲いていました。

お寺の管理をされている水庭さんご夫妻は、笑顔で境内を案内してくれました。水や地域のお話を聞きながら境内を歩いていると、この場所が多くの人に親しまれてきたことが伝わってきます。
水を求めて訪れる人たち

境内の奥にある水汲み場には、豊かな水が湧き出しています。消毒処理をしていない生水のため長期保存には向きませんが、この水を求めて多くの人が訪れます。
テレビで放送されたことをきっかけに都留の水を知り、東京・多摩地域をはじめ、千葉や静岡などから通ってくる方もいるそうです。なかには月に一度のペースで訪れ、タンクいっぱいに水を持ち帰る方もいるといいます。
水庭さんは、
「水がきれいで美味しいということが永寿院の魅力です。」
と話します。

「十日市場・夏狩湧水群」の湧水スポットである、永寿院の湧水は、富士山の伏流水が長い年月をかけて地中でろ過された軟水が豊富に湧き出ています。この豊かな水が、今も多くの人をこの場所へ引き寄せています。
2|「水源山 永寿院」という名前の由来
延暦19年(800年)に開創されたと伝わる永寿院。お寺に残る寺記には、その始まりについて記されています。
それによると、清泉の湧き出る夢(霊夢)を見たことをきっかけに、この地に仏様を安置したのが永寿院の始まりとされています。
お寺の始まりにも水が登場するように、永寿院は古くから豊かな湧水と深く結びついてきました。そのことは、「水源山」という山号にも表れています。
境内に設置された案内板には、こう記されています。
「水の源なるを以て水源山と云い、永く無量の寿水汲来ん事を祝言し寺号を永寿院と起立す」

境内の至るところから豊かな水が湧き出ることから「水源山」と名付けられ、尽きることのない水への願いを込めて「永寿院」という寺号が付けられました。その名前は、1200年以上が経った今も受け継がれています。
そして、この豊かな水に支えられてきたのは永寿院だけではありませんでした。
「十日市場」という地名に「市場」が残るように、この地域はかつて多くの人が行き交う場所でした。
水庭さんは、この地域についてこう話します。
「いつの時代も、水があるところに人が住んで、集落ができる。だから、この地域にも人が住み着いて、お寺ができたのではないでしょうか」
永寿院のある十日市場地区には、現在も複数のお寺があります。
豊かな水に支えられて人が集まり、暮らしが営まれてきた歴史は、今も地域の風景の中に残っています。
3|湧水とともにある暮らし
地域を支える湧水

永寿院の湧水は、かつて地域の人々の暮らしを支えてきました。水道が通る前は、料理や洗濯など日常生活に欠かせない水だったといいます。現在も地域の一部では簡易水道として利用され、市の水道と併用している家庭もあります。
この豊かな湧水は、都留の農業とも深く関わっています。冬の特産品である水かけ菜は、年間を通して12〜13℃と水温が安定した湧水を利用して栽培されています。

同じ「十日市場・夏狩湧水群」の水を活かし、無農薬でわさびを育てている菊地わさび園もあります。(※関連記事:「湧水と共に生きる 菊地わさび園4代目・菊地義廣さん」)
水源山を体感する
「水源山」の名にふさわしい体験は、境内のあちこちにあります。

湧水を引いている場所と水道がすぐそばにあり、参拝者は実際に飲み比べることができます。

水庭さんによると、都留の水道水もおいしいものの、湧水と飲み比べると味の違いを感じる人が多いそうです。
境内では毎年7月上旬ごろにヤマユリが見頃を迎えます。背の高い花で、見頃は1〜2週間ほど。水庭さんご夫妻が支柱を立てたり草を刈ったりしながら、大切に育てているそうです。
耳に届くせせらぎの音、境内を流れる湧水、季節の花々。「水源山」という名前の意味は、こうした風景の中でより身近に感じられるかもしれません。
4|今も水が人を集める場所
豊かな水に恵まれた永寿院には、昔から人が集まってきました。その営みは、今も形を変えながら続いています。
毎週、都留文科大学の学生が授業の一環で訪れ、都留の水について研究を続けています。受験シーズンには、境内の天神様に合格祈願に訪れる人の姿も見られます。
お話を伺った水庭さんご夫妻は、永寿院を「人が集まる場所」として大切にしています。
「お寺は人が集まるところだと思っています。お寺を開放して地域の方とお話をしたり、ここがみんなの集まれる場所になれば嬉しいです」
お参りに来た方に、境内の湧水で洗った採れたての野菜をおすそ分けすることもあるそうです。
水庭さんは、こうも語ってくれました。
「人と人とのつながりがなくなってきている世の中ですが、次の世代にも『人との交流』が受け継がれていってほしいと思っています」
とも語ってくれました。
水が人を引き寄せてきたように、永寿院もまた、人と人とのつながりを育む場所として親しまれています。
おわりに

永寿院を訪れて印象に残ったのは、湧水そのものだけではありませんでした。
境内に響く水の音や静かな空気はもちろん、水庭さんご夫妻が語る「お寺は人が集まるところ」という言葉にも、この場所らしさが表れているように感じました。
1,200年以上前に「水源山」と名付けられたこの場所には、今も変わらず水が湧き、人が訪れています。
永寿院を訪れる際は、境内をゆっくり歩きながら、水の音に耳を澄ませてみてください。
「水源山」という名前が長く受け継がれてきた理由が、少し見えてくるかもしれません。
・十日市場・夏狩湧水群を歩いてみませんか
永寿院をはじめとして、「十日市場・夏狩湧水群」の湧水スポットは、市のウォーキングルートとして整備・紹介されています。
湧水のせせらぎや木々を抜ける心地よい風を感じながら歩いてみると、車で通りすぎてしまうと気づかない、地域の魅力に気づくことができます。
※湧水めぐりについては、こちらをご確認ください。













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